割増賃金に算入しなくて良いと思われがちな手当3選

労働基準法第24条では、いわゆる「賃金支払5原則」が定められています。

賃金は、①通貨で、②直接本人に、③その全額を、④毎月1回以上、②一定の期日を定めて、支払わなければいけません。
③の「全額」には、残業代などの割増賃金も含まれています。

さて、その割増賃金の計算をする時に、基本給以外に支払っている手当がある場合は、それらも割増賃金の算定の基礎に含めなければいけないものかどうか確認してみましょう。

算定の基礎から除外するもの

①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる手当

上記の「算定の基礎から除外するもの」は37条で制限列挙されているため、これらに該当しない場合は算定の基礎に含んで計算しなければいけませんが、現場では、算定の基礎に算入しなくても良いと思われがちなものがあります。

精皆勤手当

所定労働日を全日出勤した場合などに支払われる「精皆勤手当」です。その人の出勤状況に応じて支払いが決まるため、手当が支給される月と支給されない月があることも多く、「支給されるかどうか決まってないのだから算定には入れる必要はない」と思われがちですが、出勤したことに対する労働の対価ですので、支給された月はその全額を算定に含んで計算する必要があります。

介護処遇改善手当

介護従事者の賃金改善を目的とした国の制度により、従事者に分配される手当です。分配方法は事業所によって異なり、賞与などの一時金で支給するところもあれば、毎月一定額で支給するところもあります。毎月支給される事業所の場合は、その全額を算定に含んで計算する必要があります。
この処遇改善手当は、今まで様々な形で制度が見直されている経緯もあり、「国の制度が変わったらなくなるかもしれない一時的なものだから、算定には入れる必要はない」と思われていることも多いです。

この件に関しては実際に労使トラブルが発生し、判例もありますので注意しましょう。

 介護職員処遇改善加算の制度は、介護サービスに従事する介護職員の処遇、すなわち賃金水準の改善のために、介護事業者に対して支払われる介護報酬に加算して金員を支給するものであるから、実際に介護職員に支給される賃金水準が向上(改善)するように取り扱われなければならないのは当然である。

 そうすると、介護事業者が本来当然に従業員(介護職員)に支給しなければならない時間外勤務割増賃金の支払原資に上記介護職員処遇改善加算金を充て、他面においてその分だけ時間外勤務割増賃金の負担を実質的に免れるのは、従業員の賃金水準を向上させることにつながらないから、介護職員処遇改善加算の制度の趣旨に反するものといわなければならない。

 介護事業者の介護職員処遇改善加算金の使用方法の判断にも、かかる限度で制約があるものというべきである。

 また、被告のように介護職員処遇改善加算金を原資にして従業員(介護職員)に介護処遇加算手当を毎月支給する場合、これは時間外勤務割増賃金(時間外労働割増賃金)の算定の基礎に組み込まれるべきものであるから(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条4、5号参照)、かように支給される金員も加えて算定の基礎となる金額を算出し、この金額に所定の割増率を乗じて時間外勤務割増賃金の金額を算出すべきである。

松山地方裁判所宇和島支部令和3年1月22日判決

歩合給

働いた成果や、売り上げに応じて支払われた「出来高払い」の手当や賃金については、労働の対価ですので割増の算定の基礎に含めて計算します。
ただし、その歩合給の総額を、その賃金計算期間の総労働時間で割って単価を出す必要があります。

・月額基本給 16万円
・歩合給   1万円
・所定労働時間160時間/法定外40時間/総労働時間200時間
のケースで考えてみると、計算式は以下のようになります。

基本給…16万円÷160時間×1.25=1250円
歩合給…1万円÷200時間×0.25=12.5円

1250円+12.5円=1262.5円/時間
1262.5円×40時間=50,500円

番外編:夜勤手当(交代勤務手当)

通常の深夜割増とは別途に、夜勤1回あたり1,000円支給という風に支給する、交代勤務に対する労いの意味合いのある手当が支給される場合は、少し注意が必要です。

そもそも「通常の労働時間または労働日の賃金」に当たるものについて、37条で列挙されているもの以外は算定の基礎に含む、というのが原則になっているため、たとえば通常は日勤の人がたまたま夜勤をして手当が支給されたような場合は「通常」とは言えず、算定の基礎に含めなくても良いという考え方になります。

一方で、夜勤専属の人や、夜勤勤務が常態であるような場合で、それが「通常」にあたると判断されれば算定の基礎に含む必要があると言えます。

実務においては、算定の基礎に入れていない場合が多いのですが、厳密には、その従業員もしくは事業所がどのような勤務形態なのか、また、夜勤手当の支給要件がどのように就業規則に定められているのかによって、総合的に判断する必要があります。

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